企業は市場環境の変化、組織の再編、事業拡大等に対応するため、従業員の職務や勤務地を変更する必要が生じることがあります。
しかし、配置転換・異動は雇用者の一方的な判断で自由に行えるものではありません。雇用者の管理権と労働者の生活利益が衝突する場合、法律はどのように両者のバランスを図るのでしょうか。
本稿では、労働基準法における「配置転換の五原則」と、異動命令に従わない労働者への対応について解説します。
配置転換の定義と基本前提
「配置転換」とは、実務上、雇用者が労働者の「勤務地」または「合意された業務内容」を変更することを指します。例えば、勤務地を台北から台中へ変更する場合や、バックオフィス業務から営業職へ変更する場合等が該当します。
雇用者が配置転換権を行使する際の前提として、まず「労働契約に違反しないこと」が求められます。
労働契約に勤務地や職務内容の制限が明記されている場合、労働者の同意なく変更すれば契約違反となる可能性があります。
一方、契約上一定の柔軟性がある場合でも、以下の法的要件は必ず確認する必要があります。
労働基準法における「配置転換の五原則」
雇用者による権限の濫用(例えば、配置転換を退職強要の手段として利用すること)を防ぐため、労働基準法の第10条の1には「配置転換の五原則」が規定されています。正当な配置転換命令と認められるためには、以下の5つの条件をすべて満たす必要があります。
1. 企業運営上の必要性があり、不当な動機・目的がないこと
配置転換は部門統廃合や新規拠点設立等、企業運営上の必要性に基づくものでなければならず、懲罰や報復目的であってはなりません。
2. 労働条件に不利益な変更がないこと
特に賃金が重要な判断基準となり、配置転換を理由に減給や福利厚生の削減を行うことは認められません。
3. 労働者の能力で対応可能であること
配置転換後の業務は、当該労働者の能力で遂行可能である、または簡易な教育により対応可能である必要があります。
4. 勤務地が遠方となる場合の必要な配慮
通勤時間が大幅に増加する場合、雇用者は交通費補助、社宅、送迎手段等の支援を提供する必要があります。なお、「遠方」の判断は個別に通勤時間・距離・費用等を総合的に考慮します。
5. 労働者およびその家族の生活への影響への配慮
配置転換が家庭生活に過度な負担を与えないかを考慮する必要があり、実務上最も争点となりやすい項目です。
権利濫用の判断基準
配置転換の合法性は、「権利濫用の禁止原則」に基づき判断されます。裁判所は「企業側の業務上の必要性」と「労働者が受ける生活上の不利益」を総合的に見て判断します。
例えば、配置転換により一定の不便が生じたとしても、それが社会通念上許容範囲内であれば、正当な命令と判断される傾向にあります。
一方で、配置転換が労働者に自主退職を促す目的で行われた場合は、権利濫用とされ無効となる可能性があります。
配置転換を拒否した場合の法的リスク
正当な配置転換と認められる場合において、労働者がこれを拒否し、以下の状況が発生した場合は、会社としてどのような対応ができるのでしょうか。
1. 正当な理由なく無断欠勤した場合
労働者が新たな配属先に出勤せず、かつ従来の職場でも業務を提供しない場合、労働基準法第12条第1項第6号に基づき、「正当な理由のない連続3日間の無断欠勤」として、予告なしの解雇が可能となります。
2. 命令に従わず、元の職場で勤務を継続した場合
労働者が「配置転換には同意しないが、元の職場で働き続ける」と主張した場合でも、雇用者が新たな配属先への赴任期限を明確に通知しており、その配置転換が合法であると認められた場合、元の職場で勤務していたとしても「命令に従わず労務提供をしていない」とみなされます。
台湾・台北地方裁判所106年度労訴字第126号判決によれば、このような場合でも欠勤扱いとなり、解雇要件を満たせば雇用者は合法的に解雇することが可能とされています。
結論と提言
配置転換をめぐる問題は、労使関係悪化の引き金となりやすいものです。
雇用者は配置転換命令を出す前に十分な説明と協議を行い、必要な支援策を整備することが重要です。配置転換に異議がある場合に、労働者が単に出勤しないといった消極的な対応を取った場合は、企業として解雇等の対応を検討することができます。
最終的には、配置転換の「合理性」について双方が納得できる形で合意することが、企業運営と労働者の権利保護のバランスを図る鍵となります。