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テクノロジーを活用した労務管理と従業員のプライバシー権

2026-07-13 00:00:00

人事労務コラム

~HRテック利用における企業が押さえるべきコンプライアンスのポイント~

近年、デジタル技術の発展に伴い、多くの企業がPC操作のログ取得ソフトやGPS位置情報管理、生体認証(指紋認証・顔認証など)といったテクノロジーを活用した労務管理を導入しています。

これらのツールは、業務効率向上や営業秘密保護に役立つ一方で、運用方法を誤ると「従業員のプライバシー権」を侵害し、法的トラブルにつながる可能性があります。


台湾の司法実務では、雇用者の管理権は無制限に認められるものではなく、従業員のプライバシー保護とのバランスが重視されています。今回は、監視カメラやPC監視ソフトを導入する際に企業が留意すべき法令上のポイントをご紹介します。

 

管理権の判断基準となる「比例原則」

「会社のパソコンは会社の所有物だから自由に監視できる」「オフィスは公共の場所なので監視カメラの設置に従業員の同意は不要」と考える企業もあります。

しかし、裁判所はこのような労使紛争において、「比例原則」に基づき、管理の必要性と従業員のプライバシー保護とのバランスを判断しています。

台湾高等法院の判例(94年度労上易字第46号)では、企業が財産保護や業務管理を目的として職場に監視カメラを設置すること自体は認められています。また、勤務時間中の従業員の行動は一定範囲で監視の対象となり得るとされています。

ただし、そのためには次の3つの条件を満たす必要があります。

 

1.目的の必要性

監視は、防犯や生産ラインの安全確保など、正当な業務目的に基づくものでなければなりません。

2.手段の合理性

採用する監視手段が、その目的を達成するために合理的であることが求められます。

3.利益衡量(比例原則)

従業員の権利侵害を最小限に抑える方法を選択しなければなりません。

 

監視カメラ設置で問題となるケース

例えば、「自分のパソコン画面が常に監視カメラに映っているため撤去してほしい」という相談が寄せられることがあります。

監視カメラがオフィス全体の防犯目的で設置されている場合は、通常、適法と判断されます。

一方で、特定の従業員のパソコン画面やデスクだけを長時間撮影するような設置方法は、必要性を超えた監視とみなされ、違法と判断される可能性があります。
 

PC監視ソフト(操作ログ取得ソフト)の法的リスク

営業秘密の漏えい防止を目的として、公用パソコンに監視ソフトを導入する企業も増えています。

しかし、これらのソフトは業務情報だけでなく、休憩時間中の私的なチャットや個人的なやり取りまで記録してしまうケースがあります。
 

従業員の私的な通信について、企業が事前説明や同意なく監視・閲覧した場合には、以下の法令に抵触する可能性があります。

・通信保障及び監察法(違法な通信傍受)

・刑法(秘密侵害罪)
 

実際に、営業秘密保護を理由として従業員の私的なチャットを無断で記録・閲覧した企業関係者が有罪判決を受けた事例もあります。

裁判所は、「営業秘密の保護」という目的だけでは、従業員の同意を得ない監視を正当化することはできないと判断しています。

 

労働安全衛生法・個人情報保護法にも注意

テクノロジー管理では、労働基準法だけでなく、労働安全衛生法および個人情報保護法への対応も重要です。

 

職場における安全確保

労働安全衛生法では、暴力やハラスメントなど職場での危険を防止するため、高リスクエリアへの監視カメラや警報設備の設置が認められています。

ただし、その映像は労働者の安全確保という目的に限定され、人事評価や勤務態度の監視など別目的で利用することは認められません。

 

生体情報・映像データの管理

監視カメラの映像や指紋認証データ、顔認証データはいずれも個人情報に該当します。

企業は、収集目的を明確にした上で、適法かつ誠実な方法により取得・利用する必要があります。

 

企業が実践すべきコンプライアンス対策

テクノロジーを活用した適正な労務管理を行うため、企業には以下の対応が求められます。

 

1.社内規程を整備し、事前に周知する

PC利用ルールや監視カメラの設置目的などを就業規則や社員ハンドブックに明記し、従業員へ十分に説明しましょう。

2.必要に応じて書面による同意を取得する

生体認証やPC監視ソフトなど、個人情報を取得する場合には、利用目的、取得する情報の内容、保存期間などを明示し、書面による同意を得ることが望まれます。

3.プライバシー保護区域には監視設備を設置しない

休憩室、更衣室、トイレなど、従業員のプライバシーが特に保護される場所への監視カメラ設置は避けるべきです。

4.監視データの管理を徹底する

録画映像や操作ログは適切に保管し、閲覧権限を必要最小限の担当者に限定するなど、目的外利用を防ぐ体制を整備しましょう。

5.導入前に従業員と十分にコミュニケーションを取る

新たな管理ツールを導入する際には、労使会議や従業員代表への説明を行い、制度の目的や運用方法について理解を得ることが、不要な労使トラブルの防止につながります。

 

まとめ

テクノロジーを活用した労務管理は、企業経営の効率化に大きく貢献する一方で、運用を誤れば法的リスクを招く可能性も持っています。重要なのは、「会社の管理権」と「従業員のプライバシー権」の双方を尊重し、透明性のある運用を行うことです。

監視の目的や方法を明確にし、必要最小限の範囲で適切に活用することが、企業のコンプライアンス強化と従業員からの信頼獲得の両立につながります。