新入社員の採用、既存社員に対する昇格、定期昇給等の際、適正な賃金額の設定が難しいという相談が多くあります。
2025年12月現在、短期的には冬季賞与を控えて転職希望者が減っているため求人は難しく、長期的に見ても出生率低下による労働人口減少を考慮すると人員確保は楽観視できません。
そこで、人員採用や安定雇用のためには高額な待遇を提示せざるを得ない、という傾向が強まっています。
事実、日常的に転職によるキャリアアップが行われている中、優秀な人材を確保するためには、他社の賃金支給状況を把握したうえで競争力があるオファーを提示することが不可欠です。
しかし、過度な賃金競争による支出増加は健全な企業経営の視点から看過できるものではありません。
盲目的に賃金額を競うのではなく、労働の対価という本質に着目し、従業員が労働とのバランスで納得できる賃金を支給することができれば合理的なマネジメントが可能になります。
以下に賃金競争を回避するためのポイントを紹介します。
1.職名による他社との賃金比較はしない。
一般的に見られる求人情報、昇給率、賞与支給月数等は、優秀な人材を獲得するための"広告"として魅力的な側面が強調されている場合があります。
例えば、市場相場よりも高い賃金が提示された求人情報に対しては、当該従業員が果たすべき責任の精査が不可欠であり、賃金数値のみを論じることは無意味です。 魅力的な賃金額が掲示された情報は、時に既存従業員が賃金交渉の材料として用いる場合もあるため注意が必要です。
2.従業員が有すべき能力や責任に応じて、過不足無い金額を設定する。
ここで言う能力や責任とは、業務に有益(=賃金支給に値する)と見なすものであり、各企業により価値観は異なります。 例えば、多角的かつ迅速な商機開拓を生業とする企業が創造力(creativity)に価値があると見なす一方、品質や安全を重視する企業では調和や協力に関する姿勢が評価されます。
前述のとおり、企業は従業員が果たすべき責任の軽重に基づいて等級毎に求める能力や責任を具体化し、それにふさわしい従業員を然るべき等級に配することが重要です。
なお、各等級の賃金は、適切な賃金調査を実施したうえで、人事予算や市場競争力を考慮して決定されなければなりません。
これら企業側の意図は、従業員に説明して理解を得なければ労使間の相互理解を得ることはできません。
相互理解が不十分で従業員の納得感が醸成されない場合、先に述べた単純な数値による賃金競争に陥ってしまいます。
社員説明会等で"賃金は職責に対して適切に設定されている"ことを周知できるよう、最新の市場賃金調査を実施し、能力や責任に基づく賃金テーブルを設計することが合理的な賃金管理に有益です。