台湾では、少子高齢化と人手不足の進行を背景に、シニア人材の活用が企業人事にとって取り組むべきテーマとして注目を集めています。特に、定年前の早期退職後に、有期契約で再雇用する、または請負・委任契約を締結するケースが一部企業で散見されます。
1. 有期契約での再雇用に関する法的枠組み
台湾の労働基準法第9条では、雇用者が労働者と有期契約を締結できるのは「臨時的・短期的・季節的または特定の仕事」に限られており、これに該当しない業務では有期契約の締結は原則認められていません。ただし、65歳以上のシニア人材については特例が設けられており、労働基準法第9条の制限を受けずに有期契約を結ぶことが可能です。
一方、65歳未満の早期退職者を再雇用する場合は注意が必要です。再雇用契約が長期にわたったり、繰り返し更新されたりすると、実質的に無期契約と見なされるリスクがあります。この場合、非継続的な業務内容や明確な雇用契約の終了時期を設定し、必要に応じて主管機関(労働局)に確認することで、法的トラブルの回避につながります。
2. 再雇用時が企業にもたらすメリット
企業が早期退職後のシニア人材を再雇用する最大の理由は、経験とノウハウの継承ですが、実はコスト面でも大きな利点があります。
例えば、従業員が労働保険の老年給付を受け取った後に再雇用される場合、当該従業員は普通事故保険および就業保険への加入義務がなくなり、職業災害保険のみ加入する必要があります。
例) 保険等級月額40,000元の場合、普通事故保険と就業保険の雇用者負担分保険料は約3,500元/月ですが、職業災害保険料は業種によって約50元/月にとどまります。前者が不要の場合、年間で約41,000元のコスト削減効果があります。
| 普通事故保險 | 就業保險 | 職業災害保險 | |
|---|---|---|---|
| 通常雇用時 | ○(加入義務あり) | ○(加入義務あり) | ○(加入義務あり) |
| 再雇用時(老年給付領取後) | ×(加入不可) | ×(加入不可) | ○(加入義務あり) |
参考:
被雇用者が加入すべき制度(労工保険)
労工保険の老年給付について
3. 請負・委任契約による形
定年後のシニア人材の活用としては、請負契約や委任契約も選択肢となります。ただし、契約形式が請負や委任型であっても、実際に出退勤時刻の指示や業務監督を行っている場合は「実質的な雇用関係」と判断される可能性があります。
労働契約上の従属性を避けるためには、以下のような運用が望ましいです。
・業務遂行方法を本人に委ね、会社はプロセスを指揮しない。
・報酬は成果物や成果報告に基づいて支払う。
・出退勤管理や残業代支給等、従業員と同様の処遇を避ける。
・組織図上で従業員と区別し、定例会議等への参加も限定する。
・同一業務の長期/反復委託を避け、契約はプロジェクト単位または特定の任務に限定する。
・他社との兼業や業務提供を認める等、独立性を確保する。
こうした体制整備により、形式上だけでなく実質的にも独立した契約関係を構築することができます。
シニア人材の活用は単なる社会福祉ではなく、人材の多様性確保と知識継承のための戦略的人事施策です。よって、法的リスクに配慮しつつ、本人の希望と企業の人材ニーズを両立させる運用が、今後ますます重要になるでしょう。