LINE等気軽に連絡できるコミュニケーションツールが普及するなか、上司が勤務時間外に業務指示や業務相談の連絡を行い、部下が勤務時間外に業務対応せざるを得ない状況が増えています。こうした行為が「残業」に該当するのか、法令順守の観点から企業がどのように対応すべきかは、人事管理の観点で重要なテーマです。
◎労働者の対応義務は?
労働者は、勤務時間外に業務に関する連絡を受け取っても対応を拒否する権利があります。
勤務時間外は業務関連のメール・電話・メッセージに返信する義務はなく、既読にしても応答する必要はありません。また、労働者が対応を拒否したことに対し、企業は評価や雇用条件において不利益を与えることはできません。
◎法律上のリスクと「残業」認定について
「残業」に該当するかどうかは、労働者が会社にいるかどうかではなく、実際に労務を提供したかが基準となります。残業に該当する場合には残業手当を支給する必要があります。
法律上、延長労働には協議が必要ですが、以下の場合、企業と労働者が事実上合意して残業したとみなされる恐れがあります。
・上司が勤務時間外に直接業務を指示した場合
・上司が労働者の勤務時間外の業務処理を知りながら黙認した場合
このような場合、会社には残業代を支払う義務が発生します。
◎勤務時間外の業務連絡が残業に当たるかどうかの判断
勤務時間外のメッセージ返信が残業に該当するかは、即時かつ実質的な労務提供を伴うか否かがポイントとなります。
■ 残業に該当する可能性が高いケース
・上司から「今すぐ対応が必要な業務」を指示された場合(例:翌日の会議資料の緊急作成、システムトラブル対応、報告書作成等)
■ 残業に該当しない可能性があるケース
・通知やリマインドのみ
・翌日の業務についての事前連絡
・スタンプや「了解しました」と返信するだけで、実質的な労務提供がない場合
◎「隠れ残業」トラブルを避けるための管理上の対策
1. 連絡ルールの明確化
上司が勤務時間外に連絡するのは、緊急性のある事項に限定する等、明確な基準を設ける。
2. 管理者層への法令教育の強化
勤務時間外に業務を指示した場合の残業代発生リスク、超過労働等の法令違反リスクについて、管理者層の法令遵守意識を高める。
3. コスト意識の醸成
勤務時間外の業務要求は企業の人件費増加につながるという意識を醸成する。
◎まとめ
現在、台湾では残業時間規制はあるものの、勤務時間外の連絡・業務指示を明確に禁止する法律はありません。
しかし、企業には労働者の「デジタル疲労」や「隠れ残業」のリスクを管理し、労働者の休息時間を尊重することが強く求められています。勤務時間外に業務連絡を取る行為の制限により、労働者の休息時間・家庭生活の質の向上に繋げることができます。