先日配信した「台風による出勤停止令発令日の扱い」では、台風時の対応をテーマに、企業が社員の安全を優先的に考慮し、交通手当の支給や送迎車の手配などの対策を取ることを推奨しました。しかし、現在ではそれが単なる「推奨」ではなく、法的義務となりました。
労働部は2025年9月19日、「自然災害発生時における事業所の従業員出勤管理および賃金支給に関する要点」(中国語:天然災害發生事業單位勞工出勤管理及工資給付要點)の改正を発表しました。
改正のポイントは以下の2点です。
①自然災害が発生し、地方政府が出勤停止令を発令した場合には、企業は従業員の安全を最優先とし、出勤させないことを原則とする。
②やむを得ず従業員を出勤させる場合、企業は従業員に対して通勤手段もしくは通勤手当の提供を義務とする。従業員が通勤手段としてタクシーの利用が必要であれば、その費用は雇用者の負担とする。
労働部は今回の改定発表の中で、「自然災害発生時には、原則として従業員を出勤させるべきではない」と強調しました。出勤停止令の発令下であれば、出勤しなかった場合に欠勤又は遅刻とみなすことや、振替勤務の要請をすることはできません。一方で、業務上どうしても必要な場合には従業員の同意を得た上で出勤させることができますが、企業は従業員の安全を確保するために、通勤手段又は通勤手当等の通勤時の支援措置を講じる義務があります。また、自然災害による強風や豪雨、倒木、落下物等により従業員が通勤中にケガをした場合、通勤災害として扱われます。
過去には、台風による出勤停止令が発令されている中で出勤した従業員が倒木により負傷し、補償をめぐって労使間で紛争となった事例があり、今回の改定では、企業が自然災害発生時の通勤を支援する義務を明確にし、従業員の安全を確保するとともに、通勤災害発生リスクを回避できるようにしています。
また、企業は通勤時の支援を提供することだけでなく、提供する通勤手段や手当の具体的な内容を雇用契約書や就業規則に明示することも併せて義務付けられます。労働部が発行する「就業規則審査要点」(中国語:工作規則審核要點)と就業規則のテンプレートは本改定に合わせて改訂されています。
労働部は、改定内容の説明と併せて、企業の自然災害発生時の通勤支援義務の履行を促進するための指導を強化していくことも発表しています。企業は従業員の安全確保と通勤災害リスク回避、コンプライアンス遵守の観点から、以下の対応が必要になります。
・自然災害発生時の通勤支援策の検討、設定 ・雇用契約書や就業規則等、社内規程の見直し
参考URL: https://www.mol.gov.tw/1607/1632/1633/84781/post
◎抜粋:「工作規則參考手冊」より
天然災害発生時の通勤支援に関する事項
従業員が「天然災害發生事業單位勞工出勤管理及工資給付要點(天然災害発生時の事業所における労働者の出勤管理及び賃金支給要点)」第6項に定める状況に該当し、会社の要請により出勤する場合、会社は以下の通勤支援を提供します。(※具体的な内容・条件は各社が自主的に定めます。)
1.通勤支援の内容
• 送迎車の提供(対象者や運行詳細は社内規定に基づく)
• 交通手当〇〇元の支給
• 通常の通勤手段での出勤・退勤が困難であり、タクシー利用が必要な場合、会社がその費用を負担(タクシー費用の精算は社内規定に従う)
• ホテル宿泊または社宅の提供
2.通勤支援の具体的な説明
(※会社が定める支援内容は、具体的かつ明確である必要があります)
【例】
• 会社が送迎車を提供するが、送迎地点と従業員の自宅との間でタクシー利用が必要な場合は、実費を会社が負担する。
• 会社が交通手当〇〇元を支給するが、従業員が上記規定に基づきタクシーを利用した場合は、交通手当とタクシー費用のいずれか高い方を支給する。